約 1,319,998 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1774.html
ベッドの上に寝転がり枕下に本を広げる。 いつ果てるとも知らない白紙の祈祷書との睨めっこ。 必要最低限の時間を除いて全ての時間を詔の作成に当てている。 しかし、それでも一向に節どころか句さえも思い浮かばない。 そして、ついには睡眠時間を削っての作業に入っていた。 眼は虚ろ、髪を振り乱し、かつての麗しい彼女の姿は失われていた。 そんな状態でマトモな詔が浮かぶ筈はないのだが、 今の彼女にはそんな単純な判断も出来なくなっていた。 まずは四大系統に対する感謝の言葉を韻を踏みながら詩的に表現。 要は各系統のイメージを形にすればいいのよね。 えっと…火は熱い、水は冷たい、風は涼しい、土は固い。 思いついた通りにノートに書き記してからビリビリと破り取る。 書いている時は気付かずとも再度目を通すとダメなのがすぐ分かる。 いわゆる客観的な視点というヤツだろうか。 いや、それ以前に書いた内容が子供の作文以下っていうのはどうだろうか。 そもそも四大系統に対する概念が曖昧すぎる。 もっと身近にいる人物の系統でイメージすればいいのだ。 そう、例えば…風は無口、火は色ボケ、水は色ボケ、土はただのボケ。 あ、火と水が被った。それに、これじゃただの悪口にしかなってない。 何で私の周りにマトモな人間はいないのだろうと、ぶつくさノートを破きながら文句を呟く。 そもそも人で考えるからおかしくなるのだ。 純粋に系統だけで考えるなら使い魔の方が適任だ。 よし、なんとなくイメージが沸いてきたわよ。 火はきゅるきゅる、風はきゅいきゅい、水はげこげこ、土は…もぐもぐ? って、これじゃあ鳴き声を並べただけじゃない! こんなの提出したら末代まで笑いものになるわよ。 よし、気を取り直して再挑戦。 火は影が薄い、風は皆の馬車代わり、土は…。 そこまでノートに書き留めて破き捨てる。 そうよね。マトモじゃない主人の使い魔だもの。 ああ、私ってばなんて巡り合わせが悪いのかしら…。 「火はボウボウ、水はバシャバシャ、風はビュウビュウ、土は……」 壊れかけた言動を繰り返すミス・ヴァリエール。 それを遠見の鏡で見ながらオスマンは溜息をついた。 やはり早めに伝えておいて良かった。 あまり詩的な表現は得意そうではなかったので考える時間を多くしたのだが、 缶詰になった所でいい詔は生まれまい。 せっかく時間があるのだから使い魔と気分転換にでも行ってくれば良かったのだが。 不安を紛らわすようにオスマンは一人パイプを吹かす。 それを咎める秘書は今はいない。 生徒達が里帰りしている間もミス・ロングビルは残っていた。 彼女の故郷がどこにあるのかは知らないし、 ミス・ヴァリエールのように帰りづらい理由もあるのかもしれない。 しかし、ずっと働き詰めというのは酷と気に掛けていたオスマンは彼女に休暇を勧めた。 だが、まだ決心はつかないようで彼女は学院に残っている。 落ち着かないんで、とりあえず秘書の仕事の方は休んで貰っているが。 そして同様に休暇を勧めたミスタ・コルベールは、 かねてから予定していた秘宝探しの旅に出て行った。 時間がないからこそ気分転換を味わって貰いたいものだ。 しかし宝探しとは、子供心というのはいくつになっても変わらない。 儂も若い頃は冒険に心を躍らせたものだ。 群がるドラゴンどもを千切っては投げ千切っては投げの大活躍。 それを自伝にしたら全63巻ぐらいはいくんじゃなかろうか。 題して『オスマンの奇妙な冒険』。 むむ、なんだか爆発的ヒットの予感がしてきたぞ。 思い立ったが吉日。さっそく執筆に取り掛かったオールド・オスマンが、 自分の文才の無さに気付いたのは数時間後に文章を読み直した時の事であった。 「…くぅん」 タルブ村に向かう馬車の中で彼が切ない声を上げる。 果たしてルイズは大丈夫なのだろうか。 朝一人で起きれるのか、ちゃんとご飯は食べているのか、色々と不安で仕方なかった。 なんか主と使い魔の立場が逆転してるが気のせいだろうとデルフは黙する。 「もうすぐですから我慢していてくださいね」 それを馬車旅に飽きてしまったと勘違いしたシエスタがフォローする。 まあ、それも間違いではない。ここ最近、馬車での移動が多かったのも確かだ。 風を切るように飛ぶシルフィードの背と違い、ゴトゴト揺られて走る馬車はどこか好きになれない。 ずっと前、まだ向こうにいた頃にもこうして運ばれていた。 窓も無い鉄の車両の中、自分は檻に入れられて何も分からないまま連れて行かれたのだ、 あの冷たく無機質な研究所の中へと…。 電車がレールの上しか走れないように、自分の運命も定められていた……この奇跡が起きるまでは。 「あ。見えましたよ! あれが私の故郷です」 シエスタの言葉に反応しピクリと耳が動く。 ようやく辿り着いたタルブ村は本当に田舎だった。 しかし彼にとっては物珍しく、それに何故だか心が和んだ。 シエスタと父親が再会を喜ぶ横で、水を差さないように探索に乗り出す。 ふんふんと鼻を鳴らし、あちこちの匂いを嗅いで回る。 その彼の上に影が差した。 見上げればそこにはコルベール先生の姿。 だけど先生がこんな所にいる訳はないから良く似た誰かなのだろう。 世界には似た人が三人居るらしいし……あ、匂いまでそっくりだ。 「君はミス・ヴァリエールの使い魔の…。ここで何しているのかね?」 あ、声も似てる。それに自分の事も知ってるなんて、ますますコルベール先生そのものだ。 「相棒。長旅の連続で疲れてるのは分かるけどよ…そろそろ目を覚ましてくれ」 運ばれてきた鍋を囲みながら一行は歓談に沸く。 勿論、話題の中心はコルベールがここに来た目的についてだった。 「“竜の羽衣”ですか?」 「そうです。それを使えば自由に空を飛びまわれると聞き及んだので」 自分の問いに目を輝かせて答えるコルベールにシエスタが少し苦笑いを浮かべる。 彼の言う“竜の羽衣”とは自分の曾祖父の持ち込んだ物だ。 曾祖父は立派な人物ではあったが変わり者という認識は誰もが持っていた。 一度だけ“竜の羽衣”を見せて貰った事があったが、よく分からないガラクタだった。 そんな物を見せても落胆させるだけだとシエスタがやんわりと否定する。 「でも、アレはマジックアイテムとかじゃないですよ」 「…いや、だからこそ探しに来たんじゃねえのか?」 「はい。推察の通りです」 かなり省略したデルフの言葉をコルベールが肯定する。 意味が分からずシエスタは目を丸くさせる。 マジックアイテムでもなく、人間を自由に飛びまわらせるアイテム。 そんな物は“この世界”には存在しない。 だが、別の世界…相棒が来た世界ならばそういう物があってもおかしくはない。 そして、それに使われているのは魔法ではなく科学技術。 そこから得られる知識はコルベールにとっては何よりの財宝なのだ。 その隣で、彼はお椀に盛られた『ヨシェナヴェ』をガツガツと頬張る。 彼にとっては興味の無い話だったし、想像以上に料理は美味しかった。 しかし彼とは無関係な話ではなかった。 コルベールが注目したのはもう一点。 竜の羽衣の持ち主はそれを使ってこの世界に現れたという点だ。 彼や『異世界の書物』を初め、こちらに来るのは召喚されるケースがほとんどだ。 なのに、その人物は召喚されずに異世界から現れたのだ。 そこに彼を元の世界に帰す手掛かりがあるのではないかとコルベールは予想していた。 そして奇しくもその予想は的中する事となった。 「こちらです」 シエスタが案内する先には奇妙な形の寺院。 丸木を組んで形にしたような門。 何かで白く塗り固めた壁。 縄を巻いて左右に広げ紙を吊るした飾り。 なるほど。これならば風変わりな人物と言われるのも仕方ない。 今までに見た事もない物を拝んでいれば怪しまれるだろう。 だが、これが異世界の風習ないしは宗教だとすれば辻褄は合う。 期待を胸にコルベールは更に足を進める。 そして、不意に彼の足が止まった。 彼の眼前には緑に塗装された異形の巨体。 これを何と表現すればいいのかコルベールは思い付かない。 「相棒、これは……」 デルフの問いに答えず彼は機体へと前足を伸ばす。 確信があった訳じゃない、ただ漠然とした予感があった。 それを裏付けるように彼のルーンが輝き始める。 まるで自分の手足のように末端に至るまで意思が通る。 『零式艦上戦闘機』……それが“竜の羽衣”の正体だった。 「素晴らしい! つまり、これがあればメイジでなくとも空を飛べるのですね?」 「それがよ、相棒によると燃料…風石みたいなもんが無いから飛べないらしいぜ」 デルフの通訳を介し、目の前の物が空を飛ぶ機械と説明した。 コルベール先生が喜んでくれるのは嬉しいが、使い方が分かっても自分では動かせない。 てっきり失望するものだと思っていたコルベールだったが熱は収まるどころか激しさを増す。 「いやいや、これの動かし方さえ彼から教えて貰えば大丈夫。 燃料の方もまるっきり未知の物質という訳ではないようですから錬金で作り出せるでしょう。 それに飛べなくとも、ここから得られる技術はとても貴重な物ですよ!」 もう喜色満面のコルベールは買って貰ったばかりの玩具のように戦闘機を触りまくる。 正直、彼の技術に対する執着は凄いと思った。 彼なら必ずこの戦闘機を空へと運ぶだろう。 そして、いつの日か自分で飛行機を作り出し自由に舞うだろう。 それは人間にしか成し得ない偉大な奇跡。 ルイズとは違う人間の強さを垣間見た瞬間であった。 シエスタの父は呆気ないほど簡単に“竜の羽衣”を譲ってくれた。 価値の分からない人間が持つより分かる人間の方が良い。 それにシエスタを救ってくれた恩人へのお返しになるなら安い物だと笑っていた。 ただ祖父の遺言である“本来の持ち主への返却”は果たして欲しいと付け加えられた。 それにコルベールは同意し“竜の羽衣”は彼の手に渡った。 「ま、どうせ相棒には必要ない物だしな」 自慢の交渉術や唸るほどの金を保有していたデルフがつまらなそうに呟く。 それを聞き流しながら、彼は僅かな疑惑を感じていた。 何でそんな事を考えたのかは判らない。 ただ、なんとなく彼を見ているとそう思えて仕方がないのだ。 「ふう…ようやく運ぶ目処が立ったよ」 運搬の手続きを終えたコルベール先生が疲れたように隣に腰を下ろす。 その彼の顔を、伏せたままの姿勢で彼が見上げる。 確かに疲労の色は出ているが、それ以上に満足そうだった。 不意にコルベールが口を開く。 「知っているかい? 彼女の曾お爺さんはアレに乗ってやって来たんだ」 「………!」 彼の上体が跳ね起きる。 その言葉が秘める意味に彼もデルフも気付いたのだ。 だがデルフは口を挟まない。 コルベールは相棒に話し掛けているのだ。 そこに茶々を入れる余地など無い。 「こちらの世界に来た“竜の羽衣”は二つ。 一つは今、私達が持っている物。そしてもう一つは日食の中に消えたそうです。 もしかしたら…元の世界に戻れたのかもしれません」 かつてコルベールが言った言葉は実現しつつあった。 それが自分の為と信じ彼は力を尽くしてくれた。 喜ぶべき事だって分かってるのに何故か辛かった。 帰る方法など見つからなければ良いのにと思っていたのかもしれない。 そうすればこの世界にいる事を悩むなくて済むのに…。 苦悩する彼の心境を察してもなおコルベールは続ける。 「本当の事を言うと、これは私自身の為にしているんです。 私が君の元いた世界に行ってみたい…そんなワガママなんですよ」 何故?と不思議そうにコルベールを見つめる。 優しげな表情は変わらないのに、彼の顔がどこか悲しそうに映った。 「そうですね。君にとって此処は“楽園”なのかもしれない。 そんな場所から出ていくなんておかしいと思うのも無理ないでしょう」 心配しているように見えたのかコルベールの手が彼の頭を優しく撫でる。 ちょっと薬品の匂いがキツイ大きな手に視界が塞がれる。 むぅと少し離れようとした瞬間、冷たい声が響いた。 「でも此処は“楽園”なんかじゃないんだ」 背筋がゾクリと震えた。 最初は誰の声か分からなかった。 それが自分の良く知る人物から発されたとは思えなかった。 コルベールはそれだけ告げると背を向けて立ち上がる。 「次の日食までには“竜の羽衣”を飛べる状態にしておきます。 それまでに自分の答えを導き出してください。 最良の選択肢が常に最高の結果を招くとは限りません。 だからこそ自分の意思で、後悔のない選択を」 そのまま顔を見せることなくコルベールは立ち去った。 一人残された彼の頭に最後の言葉が残響する。 空を見上げる、そこにはもう馴染みになった二つの月が浮かんでいた。 今夜はやけに空が近くに見える。 前足を伸ばせば月にさえ届いてしまいそうだ。 自由がなかった頃は想像さえつかなかった。 どこにでも行ける事がこんなにも苦しい事だなんて…。 「……誰だい?」 自室で一人、退屈を満喫していたフーケが尋ねる。 無論、部屋には彼女以外誰もいない。 窓を開けると微かだった人の気配が濃密に変わった。 「流石は『土くれのフーケ』…いや、マチルダ・オブ・サウスゴータと呼んだ方が宜しいかな?」 「っ……! 姿も見せずにコソコソと、一体何の用だい!?」 風に乗って聞こえる声が挑発的に耳に響く。 熱くなっては負けなのだが、自分の通り名どころか本名さえ知られていた。 その事が彼女から冷静さを奪っていたのだ。 「これは失礼。夜分に女性の部屋を訪れるのはいささか無礼と思ったもので」 「はん! よく言うよ、勝手に女性のプライバシーを調べておいてさ」 悪態をついてみたが形勢は宜しくない。 わざわざフーケの名を最初に出したのは脅迫だ。 もし、ここで人を呼べば自分の正体を白日の下に晒す気だろう。 「争う気はない、君をスカウトしに来た。我々は優秀な人材を求めているのでな」 「お褒めに預かり恐悦至極、とでも言うと思った? どこの組織か知らないけど名前ぐらい明かすのが筋でしょうよ」 「これは重ね重ね失礼した。我々の名はレコンキスタ。その行動目的は……聖地の奪還」 その目的を聞いた瞬間、私は笑い飛ばそうとした。 まるで夢物語のような目標を、そいつは絶対の自信を持って告げたのだ。 それが熱意なのか狂気なのか判断は付かない。 ただ学院で腐っているよりは面白そうな気がした、それだけだった。 「はぁ……暇ね」 投げ出したノートを横目に見ながら、ごろりと寝返りを打つ。 気分転換にキュルケ達の所に行ったのだが皆、留守だった。 ギーシュはモンモランシーのご機嫌取りの為だろうけど他の連中は何してんだか。 少し前までの冒険の日々が懐かしい。 戻ってきたらまたどこか一緒に探検に出掛けようか。 その妄想もすぐに尻すぼみに消えていく。 理由は簡単。あいつが傍にいないからだ。 あいつが現れてから一人で過ごす事が無くなったからか無性に寂しさを感じる。 ふと思う。もし、あいつが元の世界に帰ってしまったらどうするのか? そしたら今居るキュルケ達とも疎遠になって一人ぼっちになってしまうのか。 「やめやめ」 枕を壁にぶつけて八つ当たり。 そんな事は有り得ない。 使い魔を帰す魔法なんて無い。 そんなものは悪い想像にしか過ぎない。 目を閉じて眠りに落ちようとする彼女の耳に窓が軋む音が響く。 「……嫌な音」 まるで嵐の前兆のような風の音に、彼女は何か予感めいた物を感じていた…。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1858.html
ニューカッスル城のホールでは既にパーティの準備を終え、 主賓である皇太子を今か今かと待ち侘びていた。 貴族達は皆一様に着飾り、その顔から笑顔が尽きる事はない。 出された料理もこの日の為に取っておかれたのだろう、最高級の食材とワインが振舞われていた。 明日の死を覚悟し、彼等は今を精一杯楽しもうとしているのだ。 彼の目にはそれが“生きる事の放棄”に見えたのかもしれない。 彼等だって生きたい、生きたいはず。 だけど、それが叶わないからこうして覚悟を決めたのだ。 それは決して諦めじゃないと思う。 でも彼等を見ていると辛くなるのはどうしてなんだろうか…? 「あ…え…う、ウェールズ皇太子殿下のおなぁぁりぃぃーー!!」 ホールの入り口に立っていた人が上擦りながら声を上げる。 遅れて来た皇太子の登場にホール中が歓声に湧き上がった。 だが彼を目にした瞬間。その声はどよめきへと変わっていった。 彼が身に纏っているのは貴族の礼服ではなく軍服。 手には丸めた地図を持ち、その後ろには犬を引き連れている。 宴にはそぐわぬ異様な姿に貴族達も困惑を示し、 これは皇太子による新手の冗談かと周りに問いかける者までいた。 ウェールズの父である国王ジェームズ一世も目を剥き、杖を持つ手を震わせる。 当然ルイズにも何が起きたのかなど分からない。 しかしウェールズの目からは先程までの“死の覚悟”とは別の意思、より一層強い覚悟を感じ取れる。 「皆の者、すまないがパーティは中止……いや、延期してもらいたい! しばしの間、我等がこの手に勝利を収めるまで!」 誰もが死を受け入れて明日の決戦に備えて英気を養おうとする中、 突然の皇太子の発言は貴族達を混乱させるばかりだった。 それにも構わずウェールズは説明を始めた。 まずはクロムウェルが率いる貴族派の多くは彼に操られているという事実。 それにジェームズ一世の眉が顰められる。 忠臣の反逆が信じられないのも仕方がない。 だが既に解決した事柄を掘り返してどうなるというのか? それにそれだけの人間を操る事など如何なるメイジでも不可能。 息子の演説を止めさせようとした直後、彼の耳に驚くべき名が届いた。 『アンドバリの指輪』湖の精霊から奪われクロムウェルの手にあるという秘宝。 彼はその名を知っていた、そしてその力も…。 なんという因縁だろう、かつて冒した過ちの報いが来たというのか。 頭を抱えるように俯く王の肩にバリーがそっと手を添える。 彼だけが国王の苦悩を理解していた。 王は全てに平等たる天秤などではない、心を持った人間なのだ。 己の感情を殺し厳正なる裁きを下す、 それがどれほどジェームズ一世の心を苦しめたか。 だが、今は過去を悔やむ時ではない。 ウェールズ皇太子が言う様に勝利の可能性があるのなら一歩でも前へ進むべきなのだ…! 貴族派はクロムウェルの意のままに動く操り人形。 ここに連中の弱点が存在する。 操り手がいなくなれば人形はただの木偶と化す。 五万の軍など相手にする必要はない、ただ一人クロムウェルを討てば終わるのだ! 術者が死ぬ事で洗脳が解けるかどうかは定かではない。 だが、命令を下す者がいなくなれば兵は動けない。 例え何も起きずとも敵の総大将を討てば戦局は必ず変わる! 後はどうやってクロムウェルの下に辿り着くか、 その為の策を示す為に料理を除けてテーブルに地図を広げる。 「まずは夜影に紛れて『イーグル』号を出航させ迂回しつつ敵の警戒網を縫って接近させる」 その時には海賊船の偽装が役に立つ。 黒く塗り潰した船体は夜の闇に上手く溶け込んでくれるだろう。 しかし、それでも普通なら敵に気付かれずに近づくなど至難の業。 …だが今の私達には心強い助っ人がいる。 そう。人の悪意、敵意を感じ取れるミス・ヴァリエールの使い魔だ。 ウェールズは彼をレーダー代わりにして敵の目の隙間を探そうというのだ。 この段階ではクロムウェルのいる『レキシントン』には向かわない。 隙を突いたとしても艦隊の一斉砲撃を浴びれば『イーグル』号とて助からない。 そこで連中の目を引きつける囮が必要となるのだ。 「続けてニューカッスルから砲撃を行う…いかにも決戦を仕掛けてきたように見せてね」 地図の上に置かれた駒を動かしながらウェールズは説明を続ける。 それを見る限り城内は完全にもぬけの殻。 兵力は『イーグル』号が大半、残りが城門といった感じだ。 とてもではないが、その人数で城を守りきれるとは思えない。 「どの道、防ぎきれないだろうから…ある程度撃ち合ったら連中を中に誘い込むんだ」 「恐れながら殿下。それでは残された者が皆殺しにあってしまいますが…」 「いや、そうはさせない。連中が突破してきた所で城門を爆破して敵を中と外に分断する。 そこで反撃に転じ、取り残されて混乱する城内の敵を一掃する!」 ダンッと地図上の城門を拳で叩き、ウェールズは部下の心配を一蹴する。 普段の彼では考えられない熱の篭った言葉に部下は驚きを隠せない。 いつの間にかウェールズの周りには貴族達が集まっていた。 それも口々にこの作戦が上手くいくかどうかを話し合う。 可能性は低い、だが勝ち目があるとすればウェールズの言う策だけだ。 「その混乱に乗じ、非戦闘員を乗せた『マリー・ガラント』号を脱出させ、 『イーグル』号は一気に敵艦隊の中を突っ切り『レキシントン』に接舷し乗り込む! その後は敵の妨害に一切構わずクロムウェルの首級を上げる!」 『イーグル』号による急襲作戦。 それを提案するウェールズの声がホールに響き渡る。 死を受け入れた者には悪足掻きに見えるかもしれない。 だが見っとも無くとも情けなくともいい。 どんなに不恰好だろうと勝たなくてはならない。 ウェールズは討ち死にさえも覚悟していた。 だが自分達が戦おうとしているのは敵ではない。 操られた人間と金で雇われた傭兵、使い捨ての駒なのだ。 それと傷付けあった所で『本当の敵』には痛くも痒くもない。 互いに潰しあうその姿を愉しげに空から見下ろすだろう。 決して許してはならない! 連中の思い通りになどさせてたまるか! この戦い、必ず勝たなければならないのだ! 「……………」 皇太子の熱弁が終わりホールに沈黙が訪れる。 恐らくは死を決意するのにも相当の覚悟が要った筈だ。 今度はそれを捨てて戦えという。 一様に俯いて答えを出せずにいる中、一人の若者がウェールズに歩み寄る。 そして彼は周囲の面前で賛同の意を表明した。 「私は殿下に賛成致します。 戦う前から勝機を捨てるなどアルビオン騎士の名折れ! この身命、喜んで皇太子殿下に捧げましょう!」 若さ故か血気に逸る男が一番に名乗りを上げた。 恐らくは彼の部下だろうか、彼の背後からも口々に同意の声が上がる。 それに遅れじと次々と貴族達が男の後に続く。 しかし、それも半分まで。 残りの者達、特に年配者達は王の動向を気にして動けずにいた。 篭城しての決戦を指示したのはジェームズ一世だ。 ウェールズの策に乗るという事は王命に背く事になる。 ましてや一度出した命令を早々に変える事など王の沽券に関わる。 ちらちらと自分の顔を窺う貴族達に応える様に王は不自由な足で立ち上がった。 「王命は絶対である…!」 そして口にしたのは完全な否定を意味する言葉。 説得も不可能、決して曲がる事はない。 その一言に参加を決意した者達が沈痛に俯く。 ウェールズも自らの唇を口惜しさに噛み締めた。 彼等を見下ろしながらジェームズ一世は続ける。 「だが新たに王が立つならば、それに従うが道理」 「え?」 不意にウェールズの口より唖然とした声が漏れる。 他の貴族達も意を掴めずに戸惑うばかり。 だが、それを気に留めず国王は更に言葉を重ねる。 「今より我ジェームズ一世は王の座より退位し、その後継は我が息子ウェールズとする! これは最後の王命である! 以後はウェールズの命に従いアルビオンを守る礎となれ!」 言い終えて全身の力が抜けたジェームズ一世をバリーが支える。 古き時代が終わった、国王であった彼はそう確信した。 今、アルビオンには新しい風が吹いている。 彼等の妨げにならないように自分達は静かに道を空けるのだ。 それは傍に立つ老メイジも同じだった。 かつて若かりし頃の自分と陛下が駆け抜けた日々。 それを今度は離れた場所から見ている。 若き王の前に集う勇敢な騎士達。 なんという輝かしいばかりの生命の息吹か。 それで確信した。アルビオンは滅びたりはしない。 たとえ一人だろうと生き残った者達へと受け継がれる。 「ウェールズ国王陛下万歳!」 突然のウェールズの即位にざわめく貴族達の中、誰かが声を上げた。 それで気付いたのか、次々と皆が祝辞を述べる。 興奮に沸き返る貴族達に返礼をしながらウェールズは父へと向き直る。 「国…いえ、父上」 思わず口走りそうになった言葉を飲み込みながら、 ウェールズは父に感謝を示そうとした。 彼が身を引かなければ皆は二つに分かれていただろう。 だが、それを察してウェールズの言葉を遮った。 内部崩壊を恐れたのではない。 ましてや息子の事を考えてした事ではない。 これが正しいと信じて彼は国王の座を譲ったのだ。 その判断は間違っていない。 決して後悔しない選択だったと今こそ胸を張って言える。 「ニューカッスルの守りは任せて貰おう。 罠と分かったとしても余が居れば食いつかずにおれんだろう。 なに、バリーも傍にいる。それにおまえの足手纏いになりたくはない。 老いたりといえどまだまだ倅の世話にはならんよ」 ニカリと笑う父親にウェールズも笑みを返す。 それは彼が初めて見た父の笑顔だった。 ずっと重責を負い『国王』として振舞い続けた、父親の本当の姿だった。 意固地な人だ、最後の最後になってやっと素直になるなんて…。 いや、最後にはならない。絶対にさせない。 彼が振り返った先には頼れる仲間の姿。 一人の貴族がワインクーラーを引っ手繰る。 そして氷水の入った中身を頭から浴びる。 ぶっかけられた冷水が痛いぐらいに頭を冷やす。 「っぷあ! いい感じだ、酔いが一気に吹き飛んだぜ!」 「お、俺にも頼む!」 「ああ、心臓が止まらねえように気をつけろよ!」 「水だ! 水が足りんぞ! ジャンジャン持って来い!」 体に残った酒を抜こうとする者達の横で、老メイジは指示を飛ばす。 「よいか! 今から指定する場所に火の秘薬を仕掛けるのだ! 竜騎士隊は乗船の前に自分の竜の翼を暖めておけ!」 先程までの静けさとは打って変わった熱狂振りにルイズの目が丸くなる。 粗野で下品で貴族としての振る舞いが全然感じられない。 でも彼女の眼には、彼等がずっと人間らしく映った。 例え僅かな可能性だったとして生き残る事を放棄しない。 その生き足掻く姿こそが生命の有り様なのだ。 ウェールズを中心に慌しく動き回る人々。 その眼に込められた力を見回しながらデルフは彼に語り掛けた。 「風向きが変わったな。知ってるか相棒? 番狂わせってのはな、こういう時に起きるもんなんだぜ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1819.html
私の目から涙が溢れた。 使い魔の前で無様な姿は見せられない。 そんな事は百も承知していたはずなのに止まらない。 それで判ってしまった、私は心細かったんだ。 使い魔を召喚した日から今まで築き上げてきた物。 言葉では語り尽くせない日々に、 自分一人では触れ合う事さえなかった友人達。 それを前にして自分が成長してる気分になっていた。 でも皆と離れてしまった途端、急に恐怖が込み上げた。 今までの出来事が全部夢で自分は変わらないまま。 そんな錯覚が頭から離れなくなった。 私の自信なんて誰かが居なければ確かめる事も出来ないもの。 でも、もう大丈夫。 私の使い魔はここに居る。 どこにいようとも必ず駆けつけてくれる。 私達は二人で一つのパートナーだから。 ようやく落ち着きを取り戻しルイズは涙を拭う。 その間、微動だにせず受け入れていた彼は元の姿に戻っていた。 アニエスはまだ着地した事に気付いてないのか、目を閉じたまま震えていた。 声を掛けても聞こえてないのか、始祖への祈りを続ける。 仕方ないので彼女は放置して彼に訊ねる。 「……ねえ、一つだけ聞きたいんだけど『アレ』貴方の仕業?」 彼女の指差す先は見るまでもなく傾斜した世界樹。 その下ではランプや松明を手にした町の人がわらわらと集まってるのが見える。 彼等の悲鳴や絶叫が空を往く船にまで届いてくる。 倒れた訳ではないので怪我人や死人は出ていないだろうが、 恐らくはラ・ロシェール始まって以来の大惨事だ。 心なしか問い質す彼女の顔も引き攣って見える。 “違うよ、違うよ”と必死に前足と首を振って誤魔化す。 それを見て彼女も安堵の息を漏らした。 「そうよねー、そんな訳ないわよね」 あははは、と笑う彼女は笑みはどこかぎこちない。 状況から見ると八割方こいつの仕業で間違いない。 だけど、それを認めるのが怖くなって拒否したのだ。 弁償となれば一体どれぐらいの金額を支払う事になっただろうか。 あるいはヴァリエール家が没落していたかもしれない。 となれば誰の所為にするのがベストか? ちらりと視線を向けると町で暴れ回るゴーレムの姿。 一人と一匹と一振りの頭に電球が浮かぶ。 「許せないわ『土くれのフーケ』! 貴族の財産ばかりか、人々の共通の財産を破壊するなんて!」 「ああ、全くだぜ!」 「わふっ!」 だんっと船の縁に足を乗せてルイズがゴーレムを指差す。 それに続き、彼も両前足を縁に掛けた。 突然の彼女の言動にざわめく船員達。 しかし貴族の令嬢と盗賊、信じるべきがどちらかなど言うまでもない。 僅かな疑念を残しながらも即座に手旗信号で『フーケの仕業』と下に伝えられた。 未だに混乱が収まりきらぬ中での新情報。 目の前の怪異に慄いていた人々の前に捧げられた『真犯人』。 それは集まっていた町民の間に瞬く間に広がっていった。 「聞いたか? 犯人は『土くれのフーケ』だ!」 「おのれ! 奴の仕業だったのか!」 「俺の家を破壊したのも奴の仕業に違いない!」 「冗談じゃない! 船が来なくなったらこの街は終わりだ!」 「許せねえ! 血祭りに上げてやる!」 彼等の恐怖と混乱はやがてフーケへの怒りに変貌を遂げていく。 それはさながら魔女狩りのように人々を駆り立てた。 手に松明と武器、口々に怨嗟の言葉を吐きながら彼等はフーケの下に向かう。 それはまるで町全体が熱病に掛かったのかのようだった。 「ちっ…! しつこいんだよ、アンタ達!」 ひらひらとゴーレムの拳を避ける風竜を前に毒づく。 互いに決め手を欠いた勝負は泥沼と化していた。 以前のような平坦な場所と違い、ここでは思うように動きが取れない。 少し距離を取られてしまえば手が届かなくなる。 しかし向こうの攻撃もゴーレムを破壊するには至らない。 風竜より交互に放たれる炎と氷。 そこからすぐに相手の狙いは読み取れた。 加熱と冷却による物質疲労、それが小娘達の策だ。 判ってしまえばどうという事はない。 時には避け、時には防ぎ、決して同じ箇所への連続攻撃は受けない。 それさえ注意していれば簡単に潰せてしまう。 仮にゴーレムを破壊されたとしても修復できる。 だが問題は勝つ事じゃない。 もう船が出港している頃合だ。 つまり頼まれていた時間稼ぎは終わり。 だからとっとと撤退するのが賢い選択というもの。 その隙を見つけ出すのが重要なのだ。 でないと、いつ人が集まってくるか知れたものではない。 ちらりと下を向くとこちらに向かってくる人影が見えた。 (これだけ騒げば、そりゃあ野次馬の一人や二人来るわよね) しかし、その予想は大きく覆された。 まるで山火事のように映る無数の明かり。 数人どころではない、老若男女問わず町中の人間がこちらに向かって来る。 それも各々持参した武器を手に持ってである。 しかも何故か自分の名を叫んでいるのが下から聞こえる。 状況の判らぬフーケに群衆の一人が松明を投げつけながら怒りをぶつける。 「貴様! よくも桟橋を壊してくれたな!」 「ちょっと…! 何言ってるか全然分からな…」 「とぼけるな魔女め!」 フーケの弁明など聞く耳も持たない。 それも当然か、盗賊である自分が何を言っても無駄。 貴族のみを標的にしたとはいえ義賊でもない自分に民衆の支持などある筈もない。 否。罵倒されて然るべき存在なのだ。 「降りて来い! 絞首刑に掛けてやる!」「いや、針串刺しの刑だ!」 「年増!」「それじゃ済まされねえ! 火炙りだ!」 暴言を吐き掛けながら石や武器を投げる町民達。 そんな物はゴーレムの力で一蹴できただろう。 しかし無駄な殺しなど彼女とてしたくはない。 どうせ連中には何も出来はしない。 全て耳から耳へと聞き流す…つもりであった。 「誰だい!? 今、中に紛れて年増って言った奴はッ!!」 ゴーレムの一蹴りで粉砕される屋台。 誰が言ったか分からないNGワードが彼女の逆鱗に触れたのだ。 宙に舞い散る破片に人々がきゃーきゃー言いながら逃げ惑う。 その光景は正に怪獣映画のワンシーン。 ゴーレム大地を揺らしながら民衆に襲い掛かる阿鼻叫喚の地獄絵図。 「チャンス!」 最初は状況に付いていけなかったキュルケだが、 我を忘れたフーケの姿を見て勝機を見出す。 既に仕込みも上々、後はいつ仕掛けるか機を待っていたのだ。 タバサへ目を向けると彼女も頷いて同意を示す。 そして杖を掲げ最後の『ウィンディアイシクル』を放つ。 無論、フーケとて完全に彼女達の事を忘れていた訳ではない。 咄嗟にゴーレムで両腕の防御を固めて防ごうとした。 だが放たれた氷の矢はゴーレムを通り越し背後の岩壁へと命中する。 外したのか? いや、そうではない。 初めから狙いはゴーレムではなかった。 振り返った彼女の目の前で岩壁に亀裂が入っていく。 思えばいかに俊敏といっても、この巨体ではそうそう魔法は避けられない。 なのに連中との交戦では直撃をほとんど受けていなかった。 それが相手の未熟と彼女は疑っていなかったのだ。 ゴーレムへの攻撃、それが全てカモフラージュ。 本当の目的は物質疲労で背後の岩壁を打ち砕く事…! 根元を砕かれて岩壁が崩れ落ちる。 その崩落は津波と化して瞬く間にゴーレムを飲み込んだ。 どんなに力があろうとも押し寄せる土砂の前では無力。 フーケもろとも巨人を麓まで押し流していく。 「さよーならー続きはまた今度ねー」 「アンタ等! 覚えてなさいよ!」 ぱたぱたとハンカチを振るキュルケにフーケが怒鳴る。 しかし、それも束の間。 見る見るうちにゴーレムの巨体も小さくなり視界から消えてしまった。 普通、これだけの土砂災害に巻き込まれたらまず助からない。 しかし相手は『土くれのフーケ』だ。 その内、またひょっこりと顔を出してくるだろう。 二人の大勝利に民衆が大歓声で彼女達を讃える。 それにキュルケが機嫌良く手を振って応えた。 なるべく被害が出ないようにしたつもりだが町の一部を破壊したのだ。 お咎めがあるのでは?という不安は解消された。 “土塊の巨人を倒した英雄”として彼女達は迎えられた。 笑顔で応じながらキュルケが背後のタバサに訊ねる。 (ねえ、ひょっとして世界中が傾いたのって私達の所為?) (違うと思う……多分) 「はぁ……はぁ…はっ…」 息を弾ませながらギーシュは銃を手に取る。 彼の周りには幾多もの矢と青銅の残骸。 アニエスが去った後、膠着を脱出するべく彼等は弓を持ち出した。 ボウガンではない、通常の弓だ。 威力こそ劣るがボウガンにはない利点がある。 それはこの盾を迂回して僕を攻撃できる事。 やや上向きに放たれた矢が盾を迂回し頭上から降り注いだ。 防ぐにはワルキューレを使うしかなかった。 自分に直撃するものだけを防ぎながら反撃を繰り返す。 そして気が付けば戦力は僕一人になっていた。 弾の装填に使うワルキューレもいない。 今手にしている銃を一発撃てば僕は丸裸だ。 そして頼みの綱のヴェルダンデも宿の下の岩盤を破壊できず、 地下道を通じての脱出も不可能となった。 魔力もなく銃も撃てない、最後に残されるのは命と誇りだけ。 (それで…十分だ!) もうどれぐらい経ったか分からない。 向こうも痺れを切らし突入してくる頃だろう。 ならばみすみす殺されるのを待つ必要はない。 こちらから打って出てやる! 「うおおおおぉおおお!!」 雄叫びを上げて入り口へと突進する。 盾から飛び出した瞬間、予想された攻撃は来なかった。 ならばもっと引き付けてからか…? だが、さらに前進を続ける僕の前に敵は姿を現さない。 既に目前には入り口が迫っている。 「っ………!」 そうか、読めたぞ。 僕が店から出てきた直後、四方八方から攻撃する気か。 それは正に総攻撃。どんな策があろうとも決して防げない。 だが、こちらの覚悟は決まっている! 一人でも多く道連れにして華々しく散ってやろう…! 「トリステイン王国に栄光あれーー!!」 店から飛び出しながら地面を転がる。 それは少しでも被弾を避ける為の回避運動。 そして待ち構えているであろう敵へと銃口を向けた。 しかし…。 「あれ?」 そこには誰もいなかった。 敵どころか人の気配さえしない。 あっちこっちに視線を向けるがやはりいない。 真っ暗闇の中でぽつりとギーシュ一人が取り残されていた。 彼は知らなかったが既に傭兵達は逃げ出していたのだ。 何しろ世界樹の傾斜騒ぎに武装した町民の行進。 果ては大規模な土砂崩れまで。 ラ・ロシェールの町で起きた異常現象に恐れをなした彼等は我先に逃げ出していた。 それを知らないギーシュはずーーっと一人で存在しない敵を待ち構えていたのだ。 無人となった通りで腕を組みながら彼は首を傾げる。 そして一応の結論を導き出し口にしてみる。 「ひょっとして…勝った、のかな?」 とりあえず銃を掲げ、えいえいおーと鬨の声を上げる。 しかし誰も周りには居らず自分の声だけが残響する。 勿論、手応えもないのに勝利の喜びなどある筈もない。 その後、脳内で歓声を受ける自分の姿を想像するも、 虚しくなったギーシュは店に戻って勝利の美酒という名の自棄酒を煽った…。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1897.html
ヴェルダンデの前足が地面を抉り取る。 地上を駆ける馬と変わらぬ速度で、アルビオンの地下を掘り進む。 どれほど進んだのか、残りはどれほどか等と考えたりはしない。 城の地下に到るまで穴を掘り続ける、その覚悟だった。 しかし、自慢の爪が突如として前方の土に弾かれた。 どうやら埋まっていた岩か何かにぶつかったらしい。 それがどれほどの大きさがあるのかは判らない以上、 迂回は致命的なロスに繋がりかねない。 故に、強行突破を決断する。 今の自分を止める事は誰にも出来ない。 シャベルのように揃えられた爪がギラリと輝く。 そして、そのまま渾身の力を込めて振り下ろした。 だが、鈍い音を立てて尚も障害は爪を弾く。 その頑丈さに唖然としつつも、ヴェルダンデは諦めない。 こうなれば気力が尽きるのか先かの根競べである。 いつもの三倍の回転を加えたり、前足を光って唸らせたりと執拗に攻撃を繰り返す。 そして遂にその努力が実ったのか、目前の障壁に亀裂が走った。 おおっ!と自分の勝利に沸くヴェルダンデ。 だが、その目前で自壊するかのように亀裂が広がっていく。 見れば、岩だと思っていたそれは人工的なブロックの集合体。 破裂する寸前の風船というべきか、自分が付けた小さな傷をキッカケにして、 内側からの圧力に耐え切れなくなった外壁が崩壊しようとしているのだ。 この壁の向こうに何があるのか判らない。 しかし直感的に危機を察知したヴェルダンデは即座に土を掛けて埋め戻す。 まるで“見なかったことにしよう”と言わんばかりに。 イタズラを隠す子供のような姿だが、本人は至って真剣だ。 だが壁の崩壊を防ごうとする、その行動も無駄に終わった。 壁を打ち砕いて吹き出したのは荒れ狂う濁流。 洪水ともなれば家屋さえも容易く飲み込む勢いの前では、 ヴェルダンデであろうとも例外なく無力。 元来た道を倍以上の速度で流されていく。 「な…なんだ、何が起こったんだ!?」 地下から響き渡る轟音と振動。 それに驚いたギーシュが咄嗟に穴を覗き込む。 浮遊大陸のアルビオンで地震など起こり得ない。 考えられる要因は唯一つ。 「ヴェルダンデ! 無事かい!?」 自分の使い魔からの返答は無い。 何が起きたか判らず不安に揺れるギーシュの前に、 『言葉通り』ヴェルダンデが飛び出してきた。 それも波濤を伴って砲弾の如き速度で! トンネルから凄まじい勢いで吹き上げる水柱と、 ぽーんと宙に打ち上げられるヴェルダンデの巨体。 それに弾き飛ばされてギーシュも空を舞う。 主従が地面に叩き付けられると同時に、 吹き出した水が雨となって降り注ぐ。 「…多分、水道に穴を空けた」 「まあ無事に済んだだけでも儲けモノよね」 コートで雨を防ぎながらタバサが冷静に分析する。 キュルケは気にも留めず、腰に両手を当てて溜息をついている。 見れば、水に濡れたブラウスが肌に張り付いて透けている。 そんな裸にも見える格好を隠そうともしない彼女に、 何故かタバサの方が恥ずかしく思えてしまう。 止む無くギーシュが起きる前に、荷物の中からタオルを取り出して彼女にそっと掛ける。 それにキュルケが感謝の笑みで応える。 他に人がいたら仲のいい姉妹だと思うだろう。 「痛たたた…」 腰を擦りながらギーシュが身を起こす。 不測の事態に『レビテーション』さえ使えなかった。 見渡せばヴェルダンデも起き上がり、濡れた体を振るって水気を飛ばしていた。 唯一の救いはヴェルダンデが無事だった事ぐらいか。 今の異変に兵士達も気付き、こっちにむかって一団が移動しつつある。 迎撃するのは容易いが、それでは騒ぎを大きくするだけだ。 次から次に敵に押し寄せられては壊滅は火を見るより明らか。 焦るギーシュの視界の端で何かが蠢く。 敵かと警戒する彼の目の前に現れたのは、地面に横たわる見慣れた犬の姿。 “何で彼がこんな所に…?” その疑問を口にする間もなく彼は跳ね起きた。 そして辺りを見回して城の位置を確認すると、 落ちていたデルフを拾って丘を凄まじい勢いで駆け下りる。 突如現れた獣に困惑する敵の合間を抜けて、一目散に走り去る。 それを見送りながらギーシュも続こうとした。 「よし! 今なら敵陣も乱れている! 敵中突破できるかもしれない!」 しかし、走り出そうとするその襟にタバサが杖を引っ掛ける。 鶏が絞め殺されたような声を上げるギーシュに彼女は説明する。 「私達はこっち」 彼女が指差す先にあるのは、今も水を湛えるヴェルダンデのトンネルだった。 ニューカッスル城内の礼拝堂。 そこには始祖ブリミルの像の前に立つウェールズの姿があった。 彼が着ているのは皇太子の礼服。 本来は国王の礼服を着るべきなのだが、 ウェールズ用に仕立て直した物など準備できる筈も無い。 それでもパーティの際にも軍服を着ていた彼だ。 礼服に着替える事自体が、この式に掛ける彼の想いの表れだった。 そのウェールズの前に立つのは、式を挙げるルイズとワルドの両名。 二人とも緊張しているのか、無表情なまま壇上に立つ自分を見上げる。 「それでは、これより式を始める」 ウェールズの厳かな宣誓が礼拝堂に響き渡る。 そして僅かに咳払いし、古くからの伝統通りに続ける。 「この式に異議のある者は今すぐに名乗り出よ。 それが出来ぬというならば永久にその口を閉じよ」 自分で言いながら呆れてしまう。 今、この場にいるのは自分を除けば二人だけ。 一体、どこの誰が異議を申し立てるというのか。 儀礼の決まり事とはいえ無駄な手順に苦笑いを浮かべる。 だが、両者の意思を確認する次の段階へ進もうとした瞬間! 礼拝堂の扉は大きな音を立てて開け放たれた! 三人の視線が、突然の侵入者へと向けられる。 そこには小銃を構えるアニエスがいた。 その銃口の先にはワルドの姿を捉えている。 背にはもう一挺の銃を背負い、腰には剣を帯びていた。 まるで戦にでも赴こうかという重装備。 とても仲間の門出を祝うような格好ではない。 「アニエス! 冗談なら今すぐ止めるんだ!」 「無礼は承知の上! ですが陛下に聞いて頂きたい事があります!」 それを証明するように、彼女の指先は引き金に掛かっている。 アニエスの気迫に飲まれて、ウェールズの言葉が詰まる。 追い払ったと思った彼女の登場に、ワルドが苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。 「ワルド子爵は水の秘薬を用い、彼女の心を操っています!」 「下らん世迷言を! 陛下、耳を貸してはなりません! そして神聖な儀式を妨害した彼女にこそ処罰を!」 アニエスの言葉をワルドは否定する。 突然の乱入から始まった口論にウェールズも困惑していた。 しかしアニエスの言う事にも一理ある。 それほどまでに彼女の態度の急変化は異常だった。 たとえ、結婚式や決戦を後に控えていたとしてもだ。 だが、それも薬の所為というのなら頷ける。 感情を失ってしまったかのような少女を見据える。 彼女の姿を見て、ウェールズは何か引っ掛かりを感じた。 心を狂わせる薬ならば惚れ薬の類だろう。 けれども彼女の様子はそういった者達とはどこかが違う。 その上、ウェールズには確かな覚えがあった。 彼女と同様、虚ろな表情をした人間の姿に。 「ならば『ディテクト・マジック』を! 疑いが晴れたならば私は喜んで罰を受けましょう!」 「減らず口を…!」 奥歯を噛み締めたワルドが杖に手を掛ける。 このままアニエスを殺すのは容易い。 だが、彼女を殺せばウェールズに警戒されるだろう。 いっその事、彼女に従いルイズに『ディテクト・マジック』を掛けるか? 虚無の魔法だというのならば、簡単に探知出来るとは思えない。 しかし、例え僅かであろうと露見する危険があるなら避けるべきか。 ちらりとワルドが視線を背後に向ける。 そこには何の危機感も無く立ち尽くすウェールズの姿。 それを見て口元に僅かな笑みを浮かべた。 (殺るなら…今か) 「いいだろう! ならば我が手で無実を証明しよう!」 ワルドが大仰に杖を掲げる。 口元で呟くルーンは小声で聞き取れない。 二人の視線がルイズに向けられた瞬間、彼の杖を中心に風が巻き起こった。 彼女に向けていた杖が一転、ウェールズへと突き出される。 刹那。ウェールズとワルド、両者の間に鮮血が飛び散った。 抉られた脇腹を抑えながらウェールズの身体が壁際に吹き飛ばされる。 獲物を仕留め損ねたワルドの口から舌打ちが漏れる。 彼が狙って弾き飛ばしたのではない。 斬りかかる直前、危機を察知したウェールズが背後に飛んだのだ。 「ワルド子爵。君は…『レコンキスタ』の手の者か?」 苦悶の声に混じってウェ-ルズが問い詰める。 彼にはルイズの様子に思い当たる物があった。 それはアルビオンを裏切った重臣達の態度だ。 他者の意のままに操られる人形と化した者達の姿。 それに気付けたからこそ、ワルドの不意打ちにも対応できた。 だが、ワルドは答える必要はないとばかりに風を纏い突進してくる。 体勢を崩したウェールズに避ける術はない。 そして傷付いた身体では満足に杖も握れない。 ワルドの猛攻を前に、彼の杖は弾かれ床の上を滑っていく。 武器を奪い、勝利を確信したワルドが杖を突き出す。 しかし、直前で彼は攻撃の手を止めて背後に跳躍した。 その直後、彼の眼前を一発の銃弾が通り抜ける。 ワルドが忌々しく睨む先には、白煙を上げる銃口を向けるアニエスの姿。 彼女は即座に撃ち終わった銃を捨てて、背に負った銃を構え直す。 「動けば…撃つ」 それで脅しのつもりだろうか、彼女の言動にワルドは苦笑いする。 どこから来るのか分かっている銃など恐れる必要はない。 何の苦も無く風で弾道を曲げられる。 ウェールズが杖を失った今、僕を止められる相手はいない。 もはや何の脅威も感じず、ワルドはウェールズを始末しようとした。 しかし、次にアニエスが告げた言葉が彼の動きを止める。 「勘違いするな、貴様ではない。 私はミス・ヴァリエールを撃つと言ったのだ!」 「何だと…!?」 彼の目が驚愕に見開かれる。 見れば、銃口は確かにルイズへと向けられていた。 ウェールズを討ちにいったが為に、彼とルイズとの距離は離れている。 今からでは助けに向かう事さえ出来ない。 たとえ、アニエスを討とうとしてもルイズと刺し違えるだろう。 「貴様、正気か!?」 「彼女とて売国奴に従うぐらいならば死を選ぶ!」 アニエスはそう確信していた。 短い間だったが共に過ごしてきた仲間だ。 彼女の誇りは痛いほどに理解できる。 時には不愉快に感じた事もあったが、それでも彼女はルイズを認めていた。 だからこそ今の彼女の姿は見るに忍びない。 元に戻らないというのなら、せめて自分の手で楽にしてやりたい。 そんな気持ちが胸の内より込み上げてくる。 何故ワルドがミス・ヴァリエールにそこまで執心するのか。 その理由は判らないが、利用できるならなんでも利用する。 杖を下ろし、ワルドは抵抗する素振りを見せない。 それでもアニエスは注意を払い続ける。 もし、僅かでも隙を見せれば自分が死ぬと判っているから。 膠着状態が続く中、不意にワルドが口を開く。 「売国奴…? それは違う、僕は誰よりもあの国を愛している。 父が愛し、母が愛した、美しきトリステインを…!」 「戯言を…! それが国を裏切った者の言う事か!」 「僕は取り戻したいだけだ! あの誇り高き貴族の時代を! 偉大なる王と勇敢な騎士達が集う、あのトリステインを! 宮廷に蔓延る、利権を貪るだけの寄生虫共からッ!!」 激昂するワルドの雄叫びに彼女は怯んだ。 それは本心からの言葉だったのだろう、 いつの間にか彼の表情からは仮面が剥がれ落ちていた。 ハァハァと荒い息を吐きながらワルドは睨み続ける。 アニエスではなく、彼女の背後に見えるトリステインの重臣達を。 彼にとって心の支えは貴族としての誇りだった。 母親を失ってからは彼に残されたものはそれだけとなった。 幼き日より憧れ、ずっと理想を追い求め続けた。 その果てに辿り着いたのは落胆だった。 誰も国の明日など考えもせず享楽に明け暮れ、 餌に群がる豚のように利益を奪い合うだけの宮廷。 そして、それを咎める事さえ出来ない無力な姫。 彼がトリステインに絶望するのは時間の問題だった。 衛士一人が現状を変えられる筈も無い。 そんな宮廷に染まる事も出来ず、純粋だった心は醜く歪んだ。 そして彼は願ってしまった、全てを犠牲してでも取り戻したいと。 「君ならば判るだろうアニエス! あの国の中枢が腐り切っている事を! 二十年前のダングルテールの虐殺を生き延びた君ならばッ!」 「っ……!」 びくりと彼女が体を震わせる。 自分の過去が知られていた事に僅かに動揺を示す。 しかし、ワルドはそれを見逃しはしない。 畳み掛けるように彼はアニエスに手を差し伸べた。 「もし君が『レコンキスタ』に来るというなら受け入れよう。 わざわざ信頼を得て登りつめる必要も無い。 君が仇を討とうというのなら最善の道だろう」 ワルドの誘いに彼女は揺れた。 確かに今のままでは仇を討つのに、 どれだけ時間が掛かるか知れたものではない。 ましてや『レコンキスタ』相手にトリステインが勝てる保証はない。 少しでも早く同胞の無念を晴らしたいというなら、 トリステインから『レコンキスタ』に鞍替えすべきだと判っている。 それなのに彼女は頷けずにいた。 その迷いがどこに起因するのか判らずに戸惑う。 不意に、彼女の掌に痛みが走った。 目をやれば、そこには血に染まった布が巻かれていた。 それは割れた硝子を握り締めた傷跡。 (ああ、そうだったな…) ぎゅっと小銃を握り締めて構え直す。 動揺に震えていた照準が再び平静を取り戻す。 そして、高らかに返答を告げた。 「断る」 「な、に…?」 ワルドが思わず聞き返す。 彼はアニエスが受けると確信していた。 復讐に囚われた者は、目的の達成しか目に入らなくなる。 それなのに彼女は誘惑を断ち切ったのだ。 予想を裏切られた彼が何故だと呟く。 それに笑みを浮かべて彼女はハッキリと答えた。 「知らなかったのか? 私は“おまえのような貴族”が大っ嫌いだと」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1975.html
「左舷より竜騎士二騎接近!」 「『イーグル』号の姿はまだ確認できないのか!?」 「この濃霧の中では何も分かりません。あるいは逸れた可能性も…」 「引き続き捜索を続けろ! 動ける者は消火に当たれ!」 次々と齎される状況報告を耳にしながら、船長の顔を冷や汗が伝う。 地下空洞を抜けた『マリー・ガラント』号を待ち受けていたのは、 空において比類なき戦力を持つアルビオンの竜騎士隊を率いるワルドだった。 霧に視界を奪われた上に、周辺に浮かぶ岩礁が船足を殺す。 ましてや交易船に竜騎士を相手する力などはない。 甲板は炎に包まれ、砕かれた船体の一部が無残に内部を晒している。 乗組員の中にも負傷者が続出し、板を打ち付けるだけの応急修理が精々。 そんな、いつ撃沈されてもおかしくない攻勢を受けながら船は突き進む。 『マリー・ガラント』号が沈められなかった理由は二つ有る。 一つは、この船に乗ったルイズの存在だ。 ワルドにとって彼女を奪取する事が何よりも優先される。 その為、間違っても彼女を殺さぬように艦橋や船室を避け、 舵やマストに集中して攻撃を仕掛けて来ているのだ。 ただ皆殺しにするだけならば壊れた外壁から炎を吐き掛ければ事は済む。 そして、もう一つ。 竜騎士隊を妨害する者がそこにはいたのだ。 青い風竜を駆り、炎と風の魔法を操る二人のメイジ。 しかも彼女達はこちらの意図を把握し、要所の守りだけを固める。 彼女達がいなければワルドは船へと乗り込んでルイズを確保していただろう。 赤と青、風に靡く二人の髪の色がワルドの眼に苦々しく映る。 (もう! ここ凄く飛びにくいのね!) (……我慢) (嫌! 嫌なのね! シルフィの羽に傷が付いちゃうのね!) 船外を取り囲む岩礁を巧みに避けながらシルフィードが愚痴る。 それを何とか宥めながらタバサは周囲の敵を警戒する。 自分の使い魔は嫌っているが、この霧と岩礁が助けとなっている。 竜騎士の本領は他の竜騎士との連携によって発揮される。 だけど岩礁で思うようには動けず、霧の所為で互いの姿が目視出来ない。 故に、『マリー・ガラント』号に向かってくるのは主に単騎。 集団行動が取れていない相手ならば、彼女達でも防ぐ事が出来る。 そして何よりもキュルケの活躍があってこそだ。 『微熱』の二つ名に相応しくないほど、烈火の如く怒りに猛る彼女の炎。 それは術者の心を反映するかのように激しい物だった。 精神力の消耗さえも考えずに竜騎士隊に炎が降り注がれる。 視界も利かない中、突如として襲い来る猛攻に彼等も二の足を踏まざるを得ない。 下手に飛び込んで直撃を受ければ無事では済まないと分かっているからだ。 加えて、火竜であれば誘爆の危険性だって考えられる。 「居るんでしょう、ワルド! 隠れてないで出てきなさい! あの子にした事への落とし前、ここでキッチリ付けさせて貰うわ!」 彼女の麗しい顔立ちとは裏腹に、荒々しい言葉が口を突いて出る。 感情の高ぶりが、キュルケの力を一時的に底上げしているのだろう。 あれだけの魔法を放ち、まだ余力を残す彼女の姿に驚きを隠せない。 先の見えぬ脱出行にタバサは僅かな希望を見出していた。 「……下らんな」 キュルケの見え透いた挑発を聞き流し、 たった一騎で奮戦する敵を具に観察する。 閣下より与えられた兵達が火竜なのに対し、相手は機動力に勝る風竜。 体格的に見て成体ではないだろうが、それ故に小回りも利く。 主人とよほど深い信頼で結ばれているのか、 その巧みな機動には自分をして眼を見張る物がある。 これでは個々で仕掛けた所で意味はあるまい。 この戦況を変えるには、自分から打って出るしか無いだろう。 だが、僕にはそんなつもり更々無い。 騎乗の腕に掛けては右に出る者がいないと自負しているが、 負傷した今の状態で十全の実力は出せはしないだろう。 それに奴との戦いで精神力の大半を損耗した。 ともすれば万が一という事も有り得る。 それに、そんな事をしなくても自分は既に勝っているのだ。 もうすぐ『マリー・ガラント』号は岩礁と霧の中から抜け出す。 だが、そこに広がるのは一面の星空などではない。 その先には貴族派が誇る大艦隊の包囲網が待ち受けている。 確かに僕の竜騎士団は船の確保には失敗した。 しかし、連中の気付かぬ内に誘導させる事には成功していた。 岩礁や竜騎士の攻撃によって脱出路を限定させて追い込む。 所詮、相手は戦闘経験も無い交易船。 危険を察知する本能に劣る分、狩りよりも遥かに容易い。 「チェックメイトだ」 自分の意思とは関係なく口元に浮かぶ笑み。 薄霧の中を往く『マリー・ガラント』号を見据え、ワルドは楽しげに呟いた。 「霧を抜けるぞ!」 次第にその濃度を薄めていく霧を見て、マストの上のギーシュが叫ぶ。 彼は倒れた船員に代わり『マリー・ガラント』号の“目”の役割を務めていた。 何度も折られかけたマストは錬金とワルキューレで必死に持ち堪えている。 標的と定められている場所に彼は震える足を堪えながら立ち続ける。 次々と襲い掛かってくる竜騎士を前に何度逃げ出そうとしただろうか。 それでもギーシュは退かない。 見上げれば、そこには多数の竜騎士を相手に戦う少女達の姿。 自分がいるマスト以上に危険な最前線に彼女達はいる。 女性に戦いを任せて、自分は船室でブルブル震えていて良いのだろうか。 否。断じて許される訳が無い。 彼が信じる貴族の誇りはそんな無様を許さない。 出来る事ならば、自分が先陣に立って戦うべきなのだ。 だけど、それだけの実力が今の自分には無い。 だからこそ自分が出来る事を全うしようと心に決めた。 自身の心中と同様、澄み渡っていく空。 そこには彼等の行く末を祝福するかのように、二つの月が輝いていた。 「バカな…!」 目の前の光景を信じられないのはワルドだけであった。 此処には確かに艦隊が布陣している筈だった。 しかし、そんな物は影も形も見当たらない。 濃霧で方向を見失う等という失態は犯していない。 指示した場所には間違いは無かった。 だとすれば艦隊に何かあったというのか? 「ワルド隊長ッ!!」 先行した艦隊との連絡役が帰還する。 その様子からして不測の事態である事は分かっていた。 だが、艦隊の足を止めるほどの大事が起きるとは思えない。 事の真相を聞きだすべくワルドは部下に話を促す。 「目下、艦隊は敵の反撃を受けて応戦中! とても包囲には間に合いそうにありません!」 「反撃だと? 敵の戦力など高が知れている。 相手は竜騎士隊か? それとも、まさか奴が…!?」 「敵勢力は『イーグル』号一隻のみ! こちらの砲撃には一切構う事なく、旗艦『レキシントン』に向かっています!」 部下からの報告にワルドが舌打ちする。 もはや『レキシントン』を制圧する力も残されていまい。 進退窮まっての特攻か、見苦しいにも程がある。 されど相手は一隻、その程度の抵抗で遅れが出るだろうか? それとも『イーグル』号以外の伏兵を警戒しているのか。 他の無能共ならいざ知らず、少なくともミス・シェフィールドは違う。 彼女は『イーグル』号に何かしらの危険を感じているのだろう。 それが何なのか、彼には理解できなかった。 瞬間。ワルドの脳裏に閃きが走った。 ウェールズの立案では城門は爆破される予定だった。 しかし彼が城門を制圧した際、終ぞ火の秘薬を発見する事は出来なかった。 『マリー・ガラント』号から奪取した硫黄を元に、彼等が火の秘薬を合成していた事は間違いない。 結局は運び込まれなかったと見て放置していたのだが、 そこに使われる予定だった火の秘薬は何処に消えたのだろうか。 符合する二つの事実が彼に危険を告げる。 「直ちに旗艦の援護に向かう! ここは任せたぞ!」 「はっ!」 踵を返し本陣へと帰還していくワルドの背を見送った後、 敬礼していた男が唾を吐き捨てた。 彼はワルドの事が気に入らなかった。 最強と謳われたアルビオン国王直属竜騎士隊にこそ選ばれなかったが、 自分の実力はそれに匹敵する物だという自負がある。 それを認められたからこそ精鋭を集めた竜騎士隊の隊長を任されたのだ。 しかし、その座は後から現れたワルドに容易く奪われた。 確かに功績自体には目を見張る物がある。 だが、それも裏切りという恥ずべき行為があってこそだ。 その程度の事ならば奴でなくても誰にでも出来ただろう。 ましてや大した兵もいないニューカッスル城で手傷を負うなど、 精強を誇るアルビオン貴族派のメイジにおいては考えられない事だ。 そんな人間の下に就かなければならない不遇を、彼は呪った。 これはそんな自分に訪れた千載一遇の好機と確信した。 未だに交易船一隻沈める事さえ出来ずに現場を放棄したワルドに代わり、 自分が部隊を指揮して戦功を上げれば自ずと評価は逆転する。 そうすれば自分が隊長に成り代わる事とて夢ではないだろう。 「余所者に好き勝手やられてたまるか…! アルビオンの空は俺達の物だ!」 男の手が高々と上げられる。 それは竜騎士隊の総攻撃を示すサイン。 交渉する相手もいないのに、わざわざ非戦闘員を捕虜にする意味はない。 そう判断した男は早期に決着をつけるべく指示を飛ばした。 ワルドが指揮する事を前提にしていた為、彼には知らされていなったのだ。 この船を沈めてはならないという重大な命令を。 撃ち込まれた砲弾が外壁を砕き、船内に破片を舞わせる。 足に刺さった木片を引き抜きもせず、船員は尚も艦隊に撃ち返す。 それは砲撃戦というには、あまりにも一方的だった。 こちらが一度撃つ間に百を超える砲撃を浴びせられているのだ。 ここまで撃沈されずに来れたのは『イーグル』号の性能と、 それを生かす優れた船員達の腕と、何よりも僥倖があればこそだった。 「もう撃ち返す必要はない。 我々は艦隊の戦列に踏み込んだ…我々の勝ちだ」 船内に副長の言葉が静かに響き渡る。 圧倒的な火力を誇る彼等にとって真に恐れるべきは、 『イーグル』号の砲撃ではなく艦隊の同士討ちである。 竜騎士の攻撃も残存している王党派の竜騎士が防いでくれている。 全ての状況を把握し彼は勝利を確信した。 だが、そこに歓喜の声はない。 作戦が成功しようとも彼等が生きて戻る事はない。 元より戻るべき港も主も失われた。 これが『イーグル』号にとって片道にして最後の航海となるのだ。 「…すまんな。出来ればお前とはもう少し冒険したかったんだが」 まるで長年連れ添った親友に話し掛けるように、副長は舵に優しく手を触れた。 そして同様に、自分に付き従った船員達に謝罪の言葉を述べる。 「お前達にも貧乏クジを引かせてしまったな。 もう引き返す事は出来んが…」 「副長、何を言われるかと思えば…。 諸悪の根源を討ち滅ぼせる大任、他の誰に譲れましょうか」 「左様。主の仇討てずに何を以って騎士を名乗れというのですか」 「それに、船と運命を共にするのは船乗りの宿命ですよ」 「このまま引き返して本当の海賊になるのも悪くないですがね」 口々に副長に反論する朗らかな声があちこちから聞こえる。 今から死にに往くとは思えぬ輝いた瞳。 中には手傷を負いながらも笑い飛ばす者もいる。 長年苦楽を共にしてきた戦友達の頼もしい姿に、 緊張に固くなっていた副長の頬も綻ぶ。 そして決意を込めた眼で彼は見上げた。 自分達の直上に存在している敵を…! 「『ロイヤル・ソヴリン』! 王権の名を冠する船よ! 我等と共にあるべき御方の元へ逝こうぞ!」 『イーグル』号の舵が大きく切られる。 遺された者達に受け継がれたウェ-ルズの作戦が決行される…!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/626.html
翌日。いつものようにフレイムをギアッチョの監視に行かせたキュルケは、彼らが馬に乗ってどこかへ出掛けた事を知った。ここ数日でギアッチョを危険だと感じた事はなかったし、もうぶっちゃけ監視とかしなくてよくね?時間の無駄じゃね?と思いつつあったキュルケだが、学院外に出るという今までに無いパターンだったので念の為もう一日だけ監視を続行することにする。 キュルケが急いで支度を済ませて廊下に出ると、ルイズの部屋の前で棒立ちしていた男と眼が合った。松葉杖をつき、服の下からは包帯が見えている。ギーシュ・ド・グラモンその人であった。 「・・・あなた何してるの?」 キュルケはいぶかしげに尋ねる。 「・・・や、やあキュルケ ちょっとルイズに用があるんだが・・・まだ寝てるのかここを開けてくれなくてね・・・」 ギーシュはばつの悪そうな顔をしながら答えた。 「用?あなたがルイズに?またあの子に何かしようとしてるんじゃないでしょうねぇ」 「そ、それは違う!僕はただルイズに謝ろうと・・・」 聞けばギーシュは二股をかけており、そいつがバレた上にビンタでフられてムカムカしていたところにルイズとぶつかってモンモランシーの為の香水がブチ割れて、彼は怒りで周りが見えなくなってしまったのだという。 「・・・呆れた 完全に逆恨みじゃない あなた貴族としてのプライドってものがないの?」 二股のくだりだけはキュルケに文句を言われる筋合いはないはずだが、概ね正論だったのでギーシュは黙って耐えた。 「それで、謝りたくてやって来たんだが・・・」 「ルイズならもういないわよ」 「な、なんだってーーー!?」 物凄い顔で驚くギーシュにキュルケは溜息を一つついてから、 「ルイズと一緒にギアッチョもいるんだからどっちか一人は気付くでしょ 常識的に考えて・・・」 とのたまった。その「ギアッチョ」という言葉に、ギーシュの体がビクリと反応する。 「・・・そ、そそそういや彼もいるんだったねぇ・・・ハハハ・・・ハ・・・」 ギーシュにとってギアッチョは相当トラウマになっているようだった。ヒザが滑稽なぐらいガクガク笑っている。 あんな目に遭っておいてトラウマになるなというほうが無理な話ではあるが。 「私はこれからタバサに頼んでシルフィードでルイズ達を追いかけるつもりだけど・・・あなたはどうする?」 キュルケの助け舟に、「是非とも一緒に・・・」と叫びかけたギーシュだったが、 「・・・ちょ、ちょっと待ってくれたまえ ルイズ『達』ということは・・・」 「勿論ギアッチョもいるわよ」 ビシッ!と心臓が凍った音が聞えた。ギーシュは「・・・あ・・・あう・・・」とまるで懲罰用キムチでも食らったかのように呻いている。 そんなギーシュを見てキュルケは更に溜息を重ねると、 「どの道ギアッチョはルイズの使い魔なんだから、いつでもあの子と一緒にいるでしょうよ ルイズが一人になる隙をうかがうよりは今特攻したほうがスッキリすると思うけど?」 生きていればね、と小さな声で付け加えてギーシュを見る。 「き、聞えてるぞキュルケ!やっぱりダメだ・・・ここ、こっそりルイズに手紙を渡して人気の無いところへ呼び出して・・・」 常軌を逸した怯え方である。殺されかけたという事に加えて、自分の魔法をことごとく破られ跳ね返されたという事実が彼の恐怖を加速させていた。 キュルケは呆れを通り越して哀れになってきたが、いい加減出発しないとシルフィードでもルイズ達を見失うかもしれない。 これを最後にするつもりでキュルケはギーシュに発破をかけた。 「あなた少しは男らしいところ見せなさいよ こんなところをあの使い魔が見たらまた『覚悟』が無いとか言われるんじゃあないの?」 「――!」 その言葉に、ギーシュは動きを止めた。彼は何かを考え込むようにわずか沈黙し、真剣な眼でキュルケを見る。 「・・・ねぇ君 『覚悟』って一体何なんだろう」 先ほどまでのヘタレ具合とは一転、彼の眼には苦悩の色が浮かんでいた。 「あの男――ギアッチョに言われたことがずっと耳から離れないんだ 『覚悟』って何なんだ?彼と僕と、一体何が違うんだ? ギアッチョと僕を隔てる、絶対的な何かがあるのは解る だけど一体それが何なのか、いくら考えても答えが出ない」 ギーシュの懊悩は、キュルケには解らない。あの男の真の凄み、そして恐ろしさは、対峙してみなければ理解は出来ない。ギーシュはそう知りつつも、誰かに疑問をぶつけずにはいられなかった。例えギアッチョと同等の能力を持っていたとしても、 自分は永遠に彼に勝つことは出来ない。そうさせる何かが、あの使い魔にはある。 自分にはそれがない。その事実がただ悔しかった。 「あの決闘で――自分がどれほど自惚れていたのかを思い知らされたよ」 ギーシュはうつむいて言葉を吐き出す。 「・・・そして どれほど愚かだったのかも」 なまじっか顔と成績がいいばっかりに、高く伸びていたギーシュの鼻をヘシ折れる生徒は存在しなかった。そのギーシュを完膚なきまでに叩きのめしたのは、タバサでもキュルケでも、マリコルヌでもモンモランシーでもなかった。 ゼロと蔑まれていた少女、その人間の、しかも平民の――加えて言うならば顔もよくはない――使い魔だったのである。 ギーシュのプライドは粉々にブチ割れた。そして同時に、自分がどれほど他人を見下していたかを理解した。 「こんな屈辱に――ルイズはずっと耐えてきたんだ ・・・僕は 僕はどうしようもなく馬鹿だった」 彼女に謝罪しなければならないと言うギーシュの眼は、紛れもなく本気だった。 タバサはキュルケ達の頼みを快諾した。他でもない唯一の親友キュルケの頼みだという事もあるが、あのギーシュがそりゃもうジャンピング土下座でもしそうな勢いで頼み込んで来たのである。 それも己の利益の為ではなく、純粋に少女への謝罪の為とくれば、いくら虚無の曜日とはいえタバサも力を貸すにやぶさかではなかった。 そういうわけで彼女達は今タバサの使い魔である風竜、シルフィードに乗ってルイズ達を追っている。竜の背中でタバサは中断していた読書を再開し、キュルケはしきりとシルフィードを褒め称え、ギーシュは勢いで飛び出してきたもののやっぱりギアッチョが怖いらしく、時折キュルケの口からギアッチョの名が出る度にビクビクと震えていた。 「ギーシュ あなたいい加減腹をくくったら?」 ちょっと男らしい事を言ったかと思えばこれである。キュルケはまたも呆れていた。 「そ、そんなこと言ったって怖いものはしょうがないじゃないか!自分の魔法で全身蜂の巣にされる恐怖が君に分かるかい!?」 ギーシュがまくし立てると、 「自業自得」 タバサが活字に眼を落としながら呟く。それを聞いたキュルケが思わず噴き出し、ギーシュはもういいよとばかりにがっくりと肩を落とした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3229.html
GUILTY GEARシリーズよりチップ=ザナフを召喚 ゼロと疾風-01 ゼロと疾風-02 ゼロと疾風-03 ゼロと疾風-04 ゼロと疾風-05 ゼロと疾風-06
https://w.atwiki.jp/yaruoperformer/pages/1088.html
__ ト、 /ミY { rェミYゝ' ´`ーr,,、// l/′ V》Yゝ} | /ミ/ // V》、ミ} | {ミ〈__/ ヽ _l`ー'' l `ー'' 辷l 〈 l ト Ο _ イ〉l 〉 ヽヽ \ l / _/ /! / '  ̄`Y´ ̄ |_l/ ', rr====rf/ /| __ヽヽ三/// |. , -‐=エヽーヽミゝ―‐'´ . . .ト、_ /フーヽ }ト、__〉、ニ>、 |_,l_〕ー 、__ /ー/ー、 `ー 〉〉| r‐ヽ Λ--、 _ _l>-l\ ヽ 厶イー 、__〉工l/lΛ_l 〉 ∨ニl/Y´`Y__〉_lマム. /ーくヽ/ー' . |__ マ ヽ/__》 lゝ.ノ《__〉} ム _厶イゝ'´ ノ \〈\/__》 |__,/《 _/ヽム. r='ー'"´ . . . , イ .\二二二 Y ヽl_l ヽ / .ヽ / | . | l /ー./ ... \. / . . . .} ./ | /\ . ト、 \/ . ト、 .. \ l . . . /´ |\/ \ . .l \ / \ . .\ 名前:ウルトラマンゼロ 性別:男 原作:ウルトラシリーズ 一人称:俺 二人称:名前呼び/てめえ/お前/貴様 口調:男口調/ヤンキー寄り AA:特撮/ウルトラマン/ゼロ・ベリアル.mlt ウルトラセブンの息子。「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE」でデビューを果たした。 過去にウルトラスパークに手を出そうとして光の国を追放された過去がある。 その後、セブンの愛弟子ウルトラマンレオ・アストラの兄弟に修行を積まされた。 宿敵であるウルトラマンベリアルとの長きに渡る因縁が始まったのもこの映画。 続編『超決戦!ベリアル銀河帝国』ではアナザースペースで仲間達と出会い「ウルティメイトフォースゼロ」を結成する。 ゼロが登場する頃、円谷プロは経営統合等でゴタゴタになり危うくシリーズが終了寸前になっていた。 しかし『大怪獣バトル』シリーズのトリを飾る本映画は爆発的な人気を博し、 ウルトラシリーズの新世代「ニュージェネレーションヒーローズ」のスタート地点…ゼロとなった。 その為ゼロの人気はすさまじく、一時期の先輩方の力を借りるのが定番だったニュージェネでは 必ずと言っていいほど初代マンとゼロはそのフォームに名を連ね、前掲の通り度々客演していた。 なお2022年の総選挙では4位で、弟子のZが3位で父親のセブンが2位であった 『ウルトラマンジード』レギュラーとしてベリアルの子の朝倉リクを先輩として導く。 『ウルトラマンZ』ではゼットに師匠と慕われている。 特に変身前の人間キャラが決まっていないキャラで、幾人かに憑依していずれも分離している。 また形態変化の多いウルトラマンで今現在も増え続けている。 これだけ強化されてもまだまだ未熟なところがあるキャラで、(*1) 「ギャラクシーファイト 運命の激突」のプロローグでアブソリューティアンの脅威に対して ジョーニアス(*2)に修行を頼んでいる。 ウルトラシリーズはアジアで人気が高いが、中国では『銀河伝説』が邦画史上No.1ヒット(当時)となり、 今なおゼロはダントツで人気が高い。 中華圏オリジナルの公式二次創作『ウルトラマン英雄伝』では、 「ヤンチャしすぎて閉じ込められた暴れん坊」つながりで西遊記の孫悟空役として登場した。 キャラ紹介 やる夫Wiki Wikipedia MUGENWiki アニヲタWiki ニコ百 ピクペ 登場作品リスト タイトル 原作 役柄 頻度 リンク 備考 きめえ夫はティーポットでいれたような紅茶のようです オリジナル 一年、紅茶部の新しい部員 常 まとめ 完結 やる夫たちでソードワールドゴリ押しPT!Ⅱ ソードワールド2.5 ナイトメアの傭兵 常 第1話 まとめrss 安価 短編集完結 やる夫たちでソードワールド真面目PT! ソードワールド2.5 ナイトメアの魔術師 常 第1話 まとめrss 安価 短編集完結 キル夫は運命をひっくり返したようです ウルトラマンジード 本人役 脇 まとめ 完結 短編 タイトル 原作 役柄 リンク 備考
https://w.atwiki.jp/nenrei/pages/115.html
【作品名】ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国 【ジャンル】特撮映画 【名前】ウルトラマンゼロ 【属性】ウルトラセブンの息子 【年齢】5900歳以上(人間換算で高校2年生程度) 【長所】半端じゃなく強い こいつがメビウスVSエンペラ星人の時代に生まれてなかったという説が正しければウルトラマンたちの年齢も跳ね上がる 【短所】ネタキャラ化しつつある 【備考】「ゼロ」当時5900歳。 vol.1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1559.html
「アンタはここで待ってなさい」 使い魔にそう命じ、自室へと入り込む。 そして魔法の失敗で埃まみれになった服を脱ぎ捨て、替えの服に袖を通す。 本当に昼休み前の授業で良かった。 みすぼらしい格好で授業を受けるなんて貴族としての名折れもいいトコよ。 部屋を汚さないように外で待たせているけどアイツも洗わないといけないわね。 それにしてもメイドの子に洗ってもらってる時は気持ち良さそうにしてるのに、 私が洗おうとすると逃げるのはどういう了見なのか。 後でそこの所を追求する必要があるわね…。 あれこれ考えている内に着替えも終わり扉を開ける。 だが、そこに使い魔の姿はなく代わりに見知らぬ男が二人がいた。 人の顔を見るなりへらへらと薄ら笑いを浮かべ、見てるだけで嫌悪感が沸いた。 この手の手合いは今さら珍しくもない。 ヴァリエールの三女でありながら魔法を使えぬ自分を蔑む目。 いつも通り無視して男達の前を通り過ぎようとした。 だが進行方向を男の手が遮る。 「……何のつもり?」 「別に。少しの間、部屋で寛いでいてもらいたいだけさ」 口の端がさらに釣り上がり、明らかな嘲笑へと変わる。 既に嫌悪感は吐き気をもよおす域に達している。 だけど一体、何を考えているのか。 私を部屋に軟禁するつもりにしても無理に決まってる。 そんなことをして問題になるのはこいつ等の方。 意図を理解できずにいた私に一抹の不安がよぎった。 「アンタ……私の使い魔をどこへ連れてったの!?」 ひたすらに宙を掻き、あらん限りの声で吠え立てる。 だが地面に足はつかないし、声も届いていない。 掛けられた『レビテーション』と『サイレンス』が彼の自由を奪っていた。 そのまま連れて行かれたのはヴェストリ広場という少し開けた場所だった。 そこで『レビテーション』を解き、地面に打ち捨てるように彼を解放する。 突然の事態に生徒たちの間でも動揺が出ている。 そのざわつきを鎮めるように男が演説を始めた。 「皆、落ち着いて聞いて欲しい! つい最近、ある生徒が不正を働いているという噂を私は耳にした!」 不正という言葉の不穏当さに周囲にどよめきが広がる。 名前こそ明らかにしなかったが、その使い魔を見れば誰の物であるかは明らかだった。 半信半疑ながらも生徒たちは男の言葉に耳を傾ける。 「その生徒は学院に残りたいが為に、神聖なる召喚の儀式の際にわざと事故を起こし、 混乱に紛れて、あたかも使い魔の召喚に成功したかのようにすり替えを行ったのだ!」 「刻まれたルーンもただの偽物だ! その証拠に過去の事例に照らし合わせても、こんなルーンは見た事がない!」 よくやるものだと取り巻きの男が感心したように呟く。 全て根拠のない事なのに、まるで男は事実を語るかのように述べていく。 だが信憑性がある為に、生徒達の間では「そうかもしれない」という声が上がり始めていた。 誰もルイズが召喚している所は見ていないのだ。 見た者もいたかもしれないが所詮は人間の曖昧な記憶だ。 彼女の為に目撃証言を名乗り出る者などいない。 「だが私は彼女の無実を信じたい! 同じ学院で学ぶ者として、そのような事をする者がいるとは思いたくない!」 糾弾から一転しての弁護。 男の突然の変遷に観衆も戸惑う。 だが、それも男の計画通り。 これから行う事を正当化する為には必要な準備なのだ。 「その真実を明らかにする為に私はこの使い魔に決闘を申し込む!」 突然の発言に、ざわめきが一層大きくなっていく。 “決闘は禁止されているのでは?” “いや、禁止されているのは貴族同士だけだ” “それよりも、どうして使い魔と決闘なんかを?” 生徒同士で始まった論議。 しばらく間を置き、再び男が口を開く。 「知っての通り、使い魔には主人の目となり耳となる能力がある! ならば、ここで起きている事も主であるならば知っていて当然! もしこの場に彼女が止めに現れたならば、紛れもなくこの犬は彼女の使い魔だ! そうして疑いが晴れたならば、私は潔く彼女に謝罪しよう!」 (……よく言う。そんな気なんて更々ないくせに) 男の芝居がかった口調に辟易したギーシュが胸の内でぼやく。 これだけの騒ぎになればルイズの耳に入らない筈がない。 そうなればあの犬が使い魔かどうかなどは関係なく、彼女はここに来るだろう。 誰かに妨害さえされていなければ……。 要するに、これは周囲の理解を得た上での公開私刑。 直接彼女に手を出せない連中の嫌がらせだ。 あんなのが同じ貴族かと思うと反吐が出てくる。 男が杖を振る。 瞬時に地面が盛り上がり人型を成していく。 造型こそ荒いが10メイルに届こうかという巨大なゴーレム。 その両腕には犬一匹を相手にするには過剰すぎる破壊力があるだろう。 (人格は三流以下でも魔法は言うだけの事はあるのか……まずいな) 加えて、それなりに頭も回るようだ。 あのサイズにしたのは使い魔の逃げ場を奪う為だ。 多少精度が落ちたとしても両腕を進路に振り下ろすだけで動きを封じる事ができる。 じわじわと時間を掛けて嬲り殺しにする狙いか。 「ギーシュ。何とか止められないの?」 彼のローブの端をぎゅっと少女が握り締める。 これから行われるであろう凄惨な光景を想像し彼女の顔は青くなっていた。 「残念だけどねモンモランシー。 僕が戦うのは自分の名誉と愛する女性の為だけさ」 前髪を掻き揚げ、彼女の震える手に自分の手を重ねる。 何よりも相手が悪い。 男は少なくともラインか、それ以上の土系統のメイジだ。 同じ系統同士だと、戦い方次第で何とか…というのは難しい。 それに相手は一人じゃない。 後ろにいるのは間違いなく取り巻きだろうし、この中にも紛れているだろう。 きっと教師たちも『生徒間の出来事』と取り合わない。 だからこそ誰も口を出さないのだ。 それに貴族同士の決闘は禁止されている。 ここで男を見せて勝ったとしても得る物は少ない。 まあ怪我はさせるだろうが、いくらなんでも殺しはしないだろう。 そんな事をすれば後々問題になるのは目に見えている。 見た感じ、正気は保ってるし理性も働いている。 彼の善性などに期待はしない。 単純な利害関係で彼は手を下さないと判断し、 モンモランシーに惨状を見せない為、彼女を連れてその場を後にした。 彼は自分の状況が理解できなかった。 ただ本能が警報を鳴らし続けていた。 前方には土塊の巨人。 その背後では自分をここに連れてきた男が凄惨な笑みを浮かべている 周囲には人が群れを成しているが、誰も自分に手を差し伸べようとはしない。 そして誰よりも信頼している主の姿はどこにもない。 振り下ろされる巨大な腕。 手というにはあまりにも歪で、大きさも全然違うというのに、 彼の目に映ったそれは、自分を支配していた残酷な手そのものだった……。